作品紹介

アンクル・トムの小屋の灯に

歴史物語差別・人権問題生命の大切さ正義・正しさとは

人間が人間を差別する愚かしさ、
悲しさ、恐ろしさ・・・
ストウ夫人の半生と共に描きます

作品紹介

奴隷制をめぐって、アメリカを真っ二つに分けた南北戦争は、リンカーン大統領の奴隷解放宣言をもって1865年に終結しましたが、1851年に発表されたストウ夫人の小説「アンクル・トムの小屋」は、そのきっかけになったとさえ言われています。しかし、作者のストウ夫人については、その名前ほど知られていないようです。 劇団芸優座の「アンクル・トムの小屋の灯に」は、小説「アンクル・トムの小屋」の名場面を織り込みながら、ストウ夫人の半生を描きます。
舞台は19世紀のアメリカ、奴隷制の時代・・・ 当時は、アメリカとて女は結婚し、家事や育児に専念するものとされ、社会の悪に対しては無知であるべきと言われた時代でした。ハリエット・ストウもまた、ごく平凡な女性として暮らしていました。それが何故、奴隷制と真っ向から取り組み、このような歴史的小説を書くことになったのか・・・ まずストウ家に起きた、悲しい事件から話を始めなければなりません。
この作品では「アンクル・トムの小屋」に脈々と流れる、人間が人間を差別するという事の愚かさ、悲しさ、恐ろしさと同時に、ハリエットのように、悲しみや絶望感、無力感から逃げること無く、むしろ、その全てを引き受けて、そこから人類全ての為に働く事を思いつく、その力強さ、素晴らしさ、勇気を主張しています。

あらすじ

「アンクル・トムの小屋」の朗読会で、精力的にアメリカ各地を回っていたストウ夫人も、今年で60歳・・・ とうとう最後の町にやって来ました。そこで彼女は、いつものように朗読を始めます。

トムは最初、親切で心優しい主人の元で幸せに暮らしていました。ところが、事業に失敗して借金を抱えてしまった主人は、泣く泣くトムを売るしかなくなりました。息子のジョージ坊ちゃまは、いつかきっと、トムを迎えに行くと約束しました。でも、それからトムの辛く、悲しい、黒人奴隷としての毎日が始まったのです。その話をしながらストウ夫人は、「アンクル・トムの小屋」の題材となった過去の様々な出来事を、懐かしく思い出すのでした。

まだ結婚したばかりの頃、彼女の書いた恋愛小説が好評で、雑誌編集記者が台所にまで押しかけてきていたこと・・・。必死に料理の手伝いまでしながら、口述筆記をしていったこと・・・ お手伝いとして雇った黒人の少女が、実は逃げ出して来た奴隷で、彼女を探し回っている主人の目から隠す為に、白人の娘の格好をさせて逃がしてやったこと・・・。でも、本当にこの小説を書かせたのは、彼女の身の上に起こったある悲しい事件でした。それは、末っ子のチャーリーが産まれてまだ間のない頃、夫のストウ氏が、病気の療養のために、家を留守にしていた時のことです。町中に蔓延した、コレラが遂にストウ家にまで忍び寄って来て・・・

作品鑑賞のポイント

★劇中劇「アンクル・トムの小屋」のテーマも・・・
劇中劇「アンクル・トムの小屋」も見どころの一つですが、ここで描かれている「『許す』という事の尊さ」を是非感じて頂きたいと思います。また、「生への希望」や「家族の絆」が苦境から自らの力で這い上がる為のエネルギーであることを、これからの人生を歩むうえで、覚えていてもらえたら・・・と願っています。
★観劇後、みんなで考え、語り合おう!
人との関係を結び難くなった現代において、「差別」はいまだ大きな課題であり、身近には「いじめ」を思い起こさせます。また、まさに今のアメリカで人種間の分断が改めて取り上げられていますが、歴史的事実を知ると共に、「大多数の、声を上げられない正しい人々」が正しく生きられる世界について、あるいは、彼らの避けられなかった戦争の悲惨さについても、友達や親子など、観劇したみんなで深く考えたり語ったりできる作品です。

初演以来、全国の中・高校や鑑賞会等、多くの方々がご覧下さり、高い評価を得ています。あくまでもオーソドックスであることにこだわった舞台は美しく、明確なテーマとテンポの良い分かりやすいストーリーで、舞台劇の魅力をしっかり感じて頂けるものと信じます。
また、文化庁の「文化芸術による子供育成事業巡回公演事業」に複数年採択されており、その経験を踏まえ、「共演型公演」として、生徒さんの代表が共演するプログラムもあります。

<作品情報>
・作/村田里絵(劇中劇・ストウ夫人作「アンクル・トムの小屋」より)
・演出/平塚仁郎
・上演時間/約110分(休憩10分)
・対象/中学生・高校生・一般

皆さまからの感想

この作品は演劇鑑賞会がなかったら出会うことがなかったと思います。この作品は私に多くのことを教えてくれました。その中でも、特に印象に残っていることは、「奴隷制度」です。肌の色が違うだけで多くの同じ人間が差別を受けてきました。人間が人間を差別する。これは絶対におかしいと思います。この作品は「奴隷制度」は過去の話のようになっていますが、現在でもこの問題は起こっていると思います。一人一人が自分に関わるすべての人を大切にしていけば少しでも差別がなくなるのではないかと思いました。

T高等学校1年生女子生徒

この作品を鑑賞したことで、授業や教科書だけでは知ることのない奴隷制の恐ろしさなどを理解することができました。劇中には、衝撃的な場面がいくつかありました。黒人奴隷が棒で叩きのめされたり、鎖をつけられ乱暴な扱いをされたり、特に子供を奪われ自ら命を絶つ場面は本当にショックでした。しかし実際にはそれ以上に非人間的なことも行われていたと思うと切ない気持ちにさえなりました。そしてストウ夫人からは、善悪をしっかり見極め、どんなに辛いことがあってもそれを糧に勇気を出せる人になって欲しいというメッセージを受け取りました。

T高等学校2年生男子生徒

私が黒人奴隷について知っていたことといえば、リンカーン大統領の奴隷解放宣言くらいでした。奴隷という言葉の意味もはっきり掴めず、そんなことが起こっていたという実感などありませんでした。一昔前までは自由で平等な生活は一部の人間にしかなかったなんて信じられません。今を生きる私たち、過去の過ちを咎めることはできませんが、この演劇を見て現実を見定めることの大切さを改めて知りました。これから先どんなことがあっても劇中のトムのように人を思いやり、スト夫人のように乗り越えていきたいです。

M高等学校1年生女子生徒

この演劇を見て、奴隷社会はとても悲しくて辛いものだと思いました。奴隷社会とはもちろん僕らが感じたことのない世界ですが、過去に実際にあったことなので、忘れてはならないことだと思いました。今では自由と平等などは保障されていますが、その当時は厳しく取り締まりがありましたが、ストウ夫人は自分の信念を曲げず、奴隷社会に反対したのですごい人だと思いました。日本でも部落差別などが今でも残っていると勉強しました。これからの課題は全世界の人権侵害、差別を少しでも減らしていくことだと思いました。

J高等学校3年生男子生徒

私は世界史を専攻しているので時代的背景を知りつつ上演を楽しむことができて良かったです。老婆役の人と主人公の若い女性が同一人物で非常にびっくりしました。ひどい運命に遭遇しても神の救いと人間愛を深く信じ、最後の最後まで優しい心を失うことのないトムの姿に私たちは何か導かれるものがあると気付きました。

J高等学校2年生女子生徒

奴隷制が人道的に最低で恐ろしいものであることは、小・中・高それぞれの授業などで学び、知識としては知っていました。でも、それがどういうものなのか、心で共感することは今の時代を生きる私には全然できませんでした。授業で聞いた「奴隷は人として扱われない」という言葉の意味を、私は今日、初めて理解することができました。奴隷や、奴隷をかばおうと友のように思ってきた人たちの心の傷は計り知れなかったと思います。今の時代を生きる私たちは、知らないからこそ、同じことが起きてしまわないように、後世に伝えていかなければならないと思いました。今日の芸術鑑賞会は心で学ぶことができ、とても良かったです。

J高等学校3年生女子生徒

初めから声の大きさと演技に圧倒されて、一瞬でお話の中に入り込んだ気がしました。ストウ夫人にとっての“現在”と“過去”を交互に描いていて、あらすじを読んだだけでは分からなかった、当時の様子が少しわかってよかったです。奴隷やストウ夫人、それぞれの家族を失う場面がとても印象に残っています。感情の表現の上手さに感動したのと同時に、奴隷制や人の行ってきた歴史について深く考えさせられた劇でした。

A高等学校1年生男子生徒

ストウ夫人は立派な立場の人などではなく、普通の母親だということを知ることができた。最近、南アフリカ元大統領のネルソン・マンデラ氏が亡くなったこともあり、黒人奴隷制について考えていたときにこの演劇がありました。黒人奴隷制というものは残酷なものだとは知っていましたが、今回改めて、本当に残酷なものだなと感じました。トムが売られていってしまう場面や、亡くなってしまう場面では、こんな不条理なことがあっていいのかと、とても悔しい気持ちになり、自然と涙が出てきました。

A高等学校2年男子生徒

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とても感動しました。アメリカの19世紀にまるで行ったかのような、臨場感あふれる舞台演出。気迫あふれる演技。本当に素晴らしかったです。高校生に見てもらい、理解してもらえるように、とても分かりやすく工夫されたセリフや場面設定には感心しました。魂の大切さ、苦難を乗り越える人々の勇気。どの人にも愛を持って接した善良な人々の勝利。人生の大きなテーマをとても分かりやすく“劇”と言う芸術に仕上げて見せていただきました。本稿の生徒が静かに真剣に観劇していたことにも感心しました。質の高い作品や芸術は年代を超えて人々の心を打つのだと思います。芸優座の皆様、素晴らしい演劇をありがとうございました。これからも多くの感動を若い方々また大人の方々にも拡げていって下さい。

J高等学校教員

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